特集コンテンツ 都立公園の歴史と自然シリーズ第2話 都会の水郷 水元公園 「オニバス 生態の不思議」

都会の水郷 水元公園

絶滅していなかった東京のオニバス

オニバスは、世界の限られた場所に離れて転々と生育する原始的なスイレン科植物の一種です。日本では、宮城県・新潟県伊南の本州、四国の瀬戸内海側、九州各地の低地の沼地等に広く分布していましたが、環境省のレッドリストによると近年の確認地は87カ所、そのうち現存するのは約50カ所になっています。

関東地方では、かつて知られた群馬県館林市、埼玉県北川辺町、千葉県神崎町、千葉県本埜村、茨城県霞ヶ浦・利根川下流部地域などいずれの場所でも、安定した生育状況が脅かされていて、場所によっては、数年から10年に1株から数株が発芽しているだけになっているところもあります。

このように、現在、オニバスは絶滅の危機に瀕し、国(環境省)のレッドリストで絶滅危惧II類に指定されています。今後、全国で安定した生育地が10カ所程度にまで減少する恐れもあると考えられています。そのオニバスを見ることのできる数少ない場所の一つが、水元公園の旧東京都水産試験場内の試験池です。都内では、1956年頃まで水元の小合溜(現水元公園)にオニバスがあったものの、その後は絶滅状態にありました。しかし、1980年代初頭に試験池で泥をさらったところ、埋まっていた種子からオニバスが発芽して繁茂(はんも)しました。1984年に東京都の天然記念物に指定され保護されています。1993年、2000年に生育の悪い年を経験していますが、地元住民の方々や専門家などの協力により、現在も毎年開花・結実しています。

仲間との生存競争に明け暮れる一生

オニバスは、夏に平均で直径約1.5mの大きな円形の浮葉を広げ、植物体は大型になり、種子のみで越冬する一年草です。南米には別属ですが比較的近い仲間であるオオオニバス、パラグアイオニバスの2種があり、1.6~2mの葉を広げます。我が国に自生するオニバスの葉の直径は、環境によって変異が大きく、最大記録では3m05cmという計測記録があります。この記録からすると、オニバスは地球上で最大の葉を広げる一年草ということになります。全身がトゲで覆われ、蕾は鋭く尖り、葉の各所を突き破って空中に突き出してから開花します。
オニバスに詳しい生態に関する研究例は少なかったのですが、1980年代に、林浩二氏らの調査が水元のオニバスを中心に進められて以降、オニバスの一生のしくみが次第に明らかになってきました。オニバスの一生は、一言で言うと「仲間との生存競争の一生」とも言えます。1980年代に林氏らが調査したところによると、東京都水産試験場(当時)の池のオニバス、およそ40m四方の池に対して、発芽が良好な年には1万株以上が発芽しましたが、しかし、植物体が大型化する夏期には、争いに負け大きな葉を展開できなかった株は次々と枯死し、繁茂し続ける株数は100株程度まで減少しました。
オニバスは水面を覆うように大きな浮葉を浮かべ、水中を暗くすることにより、他の植物の繁茂を押え、一年草でありながら、生育上限の合致した場所では長年にわたって安定した群落を保っています。しかし、このことはオニバス同士の他の株にとっても脅威で、新しい葉を水面に浮かべる際に、先に出た葉の上に乗り上げて太陽光を得られるようにするため、少しでも上側にはが重なられた葉に対しては、自分自身で養分供給を止め、率先して腐らせます。つまり、望みのない葉を見捨てるような生理システムを持っていることが明らかになっています。このような自他を問わない水面争いの中で、多くは枯死し、わずかな株のみが生き残るのです。

市民参加でオニバス池保全へ

現在、オニバス池のある旧東京都水産試験場跡地は、水元公園の拡張整備地区として、新しい展開を始めています。東京都では、貴重な動植物が多く生息するこの跡地の整備を、市民参加により進めるほか、将来の管理運営においても、市民参画による新しい形を模索しています。平成13年度からは「市民参加ワーキング会議」も開始されています。
オニバスは、水産試験場跡地整備地区の代表的な希少野生植物です。今後は、イメ細やかな生育水位情報なども生かすと同時に、地元の人々の協力によって、オニバス池を含むこの跡地が、公園の新しい価値として広く認知されながら、保全が実現することを期待しています。

※当協会発行の情報誌『「緑と水」のひろば28号』より引用